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神戸地方裁判所 平成5年(ワ)3号 判決

原告

株式会社マルナカ

被告

谷垣文蔵

主文

被告は原告に対し、七〇万九八九二円及びこれに対する平成四年二月二一日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを四分し、その一を被告の、その余を原告の各負担とする。

この判決は、第一項にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一申立て

一  原告

1  被告は原告に対し、三八三万円及びこれに対する平成四年二月二一日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに第1項について仮執行の宣言を求める。

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二主張

一  原告の請求原因

1  中江隆吉が、平成四年二月二一日午後三時一〇分ころ、原告所有の別紙物件目録記載の普通乗用自動車(以下「原告車」という。)を運転して、兵庫県城崎郡城崎町上山一四八〇番地先県道を豊岡市街から城崎町方向へ時速約二〇キロメートルで進行中、被告が、普通貨物自動車(姫路四〇も一六五五、以下「被告車」という。)を運転して、路外から右県道に右折進入するにあたり、進路左右の安全確認を怠つたまま進入した過失により、被告車を原告車右側面に衝突させて、原告車を棄損した。

2  原告は本件事故により、次のとおり、損害を受けた。

(一) 修理費 一〇八万円

(二) 代車料 一七五万円

原告は、修理期間の三五日間、代車として、株式会社ユースドカーヤマモトからBMW八五〇型一台を一日五万円で借り受け、合計一七五万円を支払つた。原告車はエアバツグ付きの車両であり、原告は、安全のため、修理を依頼した日産但馬販売株式会社にエアバツグ付きの代車を求めたが、同社にそのような車両がなかつたので、やむなく右BMWを借り受けたものである。

(三) 評価損 五〇万円

(四) 弁護士費用 五〇万円

3  よつて、原告は被告に対し、右損害金合計三八三万円及びこれに対する事故の日である平成四年二月二一日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員の支払いを求める。

二  請求原因に対する被告の認否

1  請求原因1の事実のうち、事故の日時、場所、当事者、事故の外形的態様は認めるが、原告車の速度、被告の過失は争う。

2  同2の事実は争う。原告が修理に要した費用はその主張より少ないし、評価損については、損傷箇所がわずかであつたうえ、修理によつて完全に現状回復されているし、原告は原告車を事故を起こした車両であることを表示せず、レツドブツクどおりの価額である六八〇万円で売却しており、評価損は生じていない。

また、代車料については、原告は、一〇〇台以上の車両を所有していたのであるから代車の必要性はなく、現実に代車を借り受けたかどうかも疑わしい。

さらに、原告の損害は五〇万円程度であるところ、被告が一〇八万円の支払いによる解決を申し出ていたのに、原告はこれを拒否して本訴を提起したのであり、このような場合に、弁護士費用を被告が負担する理由はない。

三  被告の抗弁

本件事故は、被告が原告車の方向からみて右側の空地から道路に進入しようとした際に発生したものであるが、当時雪が降つており、左右の見通しは悪く、被告は同乗者谷口秀夫に左方の安全を確認してもらつて発進したのであるが、被告車の速度が時速約五〇キロメートルのかなり速い速度であつたことと、雪で充分見通しがきかなかつたことから接触するに至つたものである。その接触場所は被告車がほぼ右折を完了した後に、原告車がその左側に進入してきて、被告車左前端部と原告車右側面が接触したものであり、雪で見通しが悪い中を、時速約五〇キロメートルで進行した原告車運転の中江隆吉の過失は相当重い。その過失割合は、原告側四割、被告六割というべきであるので、被告は過失相殺を主張する。

四  抗弁に対する原告の認否

抗弁事実は争う。

本件事故は、被告が、左右の安全確認を怠り、急に路外から道路上に進入してきたために生じた事故であつて、当時の、降雪によるスリツプしやすい道路状況での原告車の事故回避措置は適切であり、中江隆吉に落ち度はない。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  平成四年二月二一日午後三時一〇分ころ、兵庫県城崎郡城崎町上山一四八〇番地先県道において、豊岡市街から城崎町方向へ進行中の中江隆吉運転の原告車と、路外から右県道に右折進入した被告運転の被告車とが衝突事故を起こしたことは当事者間に争いがない。

二  そこで、本件事故における原、被告車の各運転者の過失の有無について検討を加えるに、甲第七号証の一ないし一四、乙第一ないし第一〇号証、第一二号証、証人滝田省三、同谷口秀夫、同八木恭子、同中島基の各証言、原告代表者の尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次のとおり認めることができる。

1  本件事故現場は、豊岡市街と城崎町を結ぶ県道上であつて、幅員約五・五メートルのアスフアルト舗装の道路で、中央に黄色の中央線が引かれており、道路の両端には約〇・五メートルの路側帯があり、豊岡市街方向から本件事故現場に至る直前で右カーブとなつているが、見通しはさほど制限されてはいない。

2  本件事故当日は、断続的に雪が降る天候であり、事故の少し前ころから、やや激しい降雪となり、路面は、轍部分を除き、雪で薄く覆われる状態であつた。

3  中江隆吉運転の原告車(車長五・二二メートル、車幅一・八三メートル)は、スタツドレスタイヤを装着しており、豊岡市街方向から城崎町方向へ進行し本件事故現場に至つたのであるが、原告車の方向からみて右側の国民宿舎の駐車場から城崎町方向へ向かうべく県道上へ右折進入した被告車と衝突した。衝突の状況は、被告車左バンパーが原告車バンパーに衝突し、原告車が、被告車左バンパーで原告車の右側のバンパー、前部フエンダー、前部ドア、後部ドアと磨つて、被告車の前方へ出て停止したもので、右前部フエンダー、右前部ドアが少し凹損した。

以上のとおり認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。ところで、原告代表者は、原告車の速度は時速一〇ないし二〇キロメートルであつたといい、約一五メートル程手前で停まつている被告車に気づいたものの、そのまま進行したところ、約一〇メートル程手前で被告車が発進し、右折進入してきたため、これを避けるため、また、後続車の追突を避けるため段階的に制動しながら、車を左に寄せたが、衝突するに至つたと述べるところである。被告は、原告車の速度が時速約五〇キロメートルであつたと主張するが、これを証するに足りる証拠はないし、原告車及び被告車の衝突時の位置、停止時の位置、その距離関係などを明らかにする証拠はなく、車両損傷程度からみても、車両の速度を含めて原告代表者の右供述を覆すに足りるだけのものはない。

以上に鑑みるに、被告が、路外から道路へ右折進入するにあたつて、道路左方から進行する車両の動静に対する注意義務を欠いていたことは明白である。他方、中江隆吉も、約一五メートル手前で被告車に気づいたというのであるが、道路及び降雪の状況を考慮しても、より手前で被告車に気づくことは可能であつたし、また、約一〇メートル手前で被告車が発進したことに気づいたのであり、原告車の速度が時速一〇ないし二〇キロメートルであつたことからすれば、道路状況を考慮しても、衝突前に停止することが可能であつたということができる。これらの事情を考慮すれば、被告車を運転していた中江隆吉にも過失があつたというべきであり、過失割合は、被告九割、中江隆吉(原告側)一割と認める。

三  そこで、原告の損害について検討する。

1  甲第八号証の一、二、証人福田稔の証言によれば、原告は原告車の修理代として、六〇万三三六九円の支払いをし、修理代残金一八万円及びこれに対する消費税分五四〇〇円の債務を負担していることを認めることができる。

2  原告は、修理期間の三五日間、代車として、株式会社ユースドカーヤマモトからBMW八五〇型一台を一日五万円で借り受け、合計一七五万円を要したと主張し、これを証するものとして、同社作成の右金額に消費税を加えた一八〇万二五〇〇円の請求書(甲第五号証)を提出する。しかしながら、原告代表者の供述によれば、右代車のBMW八五〇型は価格が一五〇〇万円程度の車両であり、一〇〇〇万円弱の原告車より相当高級の車両であるといえるし、その借受代金も高額であり、このような代車の必要性が疑われるだけでなく、原告代表者の供述によれば、三五日間より長く借りており、その代金は既に代表者が個人的に支払つたというのである。これによれば、前記甲第五号証は事実に反するものであるといわなければならないし、原告(会社)が支払うべきものを代表者個人が支払わなければならない事情は明らかでないうえ、領収書の提出はなく、さらに、原告代表者は、その借りた日と返した日を正確にできないのであつて、前述の修理代金について現実に要した修理費以上の額を修理前の見積書に基づいて請求していることをも考慮すると、原告が実際に代車を借りたかどうかについては疑問が生じるものである。そこで、結局、代車を借りたとの立証がないといわざるを得ず、右代車料の請求は認めることができない。

3  原告は、評価損として、五〇万円を請求するが、乙第一一号証の一、二、第一二号証、第一三号証、第一六号証、証人寺川治夫の証言、原告代表者の尋問の結果によれば、原告は、原告車を兵庫アクテイブ株式会社に六八〇万円で売却したが、事故車との表示をせずに売却しており、右価額は、本件事故による修理によつて五〇万円の価格減点が生じるとした証人寺川治夫が供述する減点前の価額より高額である。してみれば、評価損は現実には生じていないものといわなければならない。

4  原告は本訴追行による弁護士費用を請求するところ、乙第一四号証、第一五号証によれば、本訴提起前、被告は本件事故による損害として一〇八万円の支払いを提案したが、原告がこれを拒否して本訴提起に至つたことを認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。そして、前述のとおり、本件事故により原告に生じた損害は、七八万八七六九円というべきであるが、そうであれば本訴を提起するための弁護士費用は相当因果関係を欠くもので、これを被告に請求することはできないというべきである。

四  以上によれば、原告の請求は、前記損害額七八万八七六九円について一割の過失相殺をした七〇万九八九二円(円未満切捨て)及びこれに対する平成四年二月二一日から支払いずみまで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九一条を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松本哲泓)

物件目録

一、車両番号 姫路三三そ四七九〇

車名 ニツサン

型式 E―JHG五〇

車台番号 JHG五〇―〇〇二四四一

原動機の型式 VH四五

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